2016-02-13

天使の釣り竿



すりガラスのこの世の壁を誰がみつけたのか

ひとたび知るとすべてが空しく感じ始める


帰りたいという衝動



春先のよく知った風が吹くと

過去が甦って未来を塞ぐ



小さな天使が飛び回り知らせて回るが間に合わない



小さな池の端に座り

釣り糸を垂れて少年が笑っている



ここに座って落ち着きなよ


何を釣ってほしいかとすかさず尋ねてくる



わからないー


口ごもるやいなやすぐに唇が動く


お母さんを釣ってほしい


一度でいいから

会いたいの



いいよ

少年はポンと返事をした


たちまち

池の水が大きく揺れて盛り上がる


津波が来る前の沖のように

不気味なうねり


そして

現れた

大きな日の塊


血管のような脈があちこちから見える

光の珠

赤く膨張した星のよう



これがお母さん?


そうだよ

そうさ

ここから皆生まれたんだよ



そしてここに帰るんだ



いつかね



ほら

次は何を釣る?


細い眼の少年の白い横顔


その背には

大きな天使の翼があった